歪み
もう、誰でも良かった。
その日かぎりでも、一瞬でも
本物だろうが偽物だろうが
愛してると言われたかった。
誰かに必要とされたかった。
欲を言えば執着されたかった。
高校時代から付き合ったいた彼との別れを機に、私は歪み始めてしまった。
落ち込んでいた私を見かねて友人がクラブに誘ってくれたことが事の始まりであった。
もともと派手なタイプの人間ではなかったゆえはじめのうちこそ圧倒されていたが、酒が進むにつれて我を忘れてガラにもなく騒ぐ。
完全に酒の力を借りてはいたけれど大勢の人と朝までワーワー騒ぐのが楽しくて寂しさも紛らわすことができて、すっかりクラブ通いをするようになってしまった。
言い寄ってくる人がいれば都合よく甘え、2人で抜け出して朝まで過ごすことも少なくなかった。
人の腕の中って本当に心地いい。
あたたかくて、落ち着く。
誰と過ごしていても「じゃあまたね」と言う"朝の挨拶"が怖くて
誰が叶えてくれるわけでもないのに時間を止めて、と何度も心の中で念じては虚しく朝を迎えた。
虚無感
この頃の私の心情を表すのに丁度いい言葉。
本当は、本気で愛し合える人に出会いたいと思っているのに、やめられない。
真剣な交際を申し込んでくれる人もいたが、また終わってしまうのが、悲しい別れを迎えるリスクを背負うことがとてつもなく怖くて抜け出せない。
その日のことだけ考えて"手頃な愛"を求めては溺れていった。
そんな自分にどうしようもない嫌気がさすのにもそう時間がかからないということを、この時の私は考えてすらいなかった。